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人生朝露

人生朝露

地震予知と杞憂。

荘子です。
荘子です。

参照:双葉山と木鶏。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5136/
前回の「木鶏」は『荘子』と『列子』の両方にほぼ同じ内容の文章がありますが、今回は『列子』から。

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イタリア:地震予知失敗「有罪」に疑問の声…海外の科学者
毎日新聞 2012年10月23日

 【ローマ福島良典】09年4月のイタリア中部ラクイラの大地震で、直前の安全宣言が犠牲の拡大を招いたとして過失致死傷罪に問われた地震学者ら7人に22日、禁錮6年(求刑同4年)の有罪判決が下されたことに、海外の科学者らから「科学にとって悲しい日だ」などと判決の妥当性に疑問を投げかける声が出た。
 判決を受けたのは、大規模災害のリスクを評価する委員会のメンバーだった地震学者や政府担当者ら7人。裁判では、技術的に困難とされる地震予知を巡り、科学者の刑事責任を問えるかが焦点となった。被告の一人、イタリア国立地球物理学火山学研究所のエンゾ・ボスキ元所長は判決後、「無罪になると思っていた。意気消沈した」と語った。一方、地震犠牲者の遺族らは判決を歓迎した。
 AP通信によると、米科学誌「サイエンス」のブルックス・ハンソン副編集長(物理科学担当)は「群発地震がその後、どうなるかは分からない」と指摘し、警報を乱発すれば誤報とパニックを招くと警告した。
 また、英王立バークシャー病院のマルコム・スペリン医学物理学部長は英BBC放送に「科学者が間違った予知で罰せられれば、科学的探求は確実なことに限られ、得られる恩恵も限られる」と懸念を表明した。
--------------------------------(引用終わり)----

参照:イタリア:地震予知失敗「有罪」に疑問の声…海外の科学者 毎日jp
http://mainichi.jp/select/news/20121023k0000e030203000c.html

列子(列禦寇  Li?z?)。
『杞國有人、憂天地崩墜、身亡所寄、廢寢食者。又有憂彼之所憂者、因往曉之、曰「天、積氣耳、亡處亡氣。若屈伸呼吸、終日在天中行止、奈何憂崩墜乎?」其人曰「天果積氣、日月星宿不當墜邪?」曉之者曰「日月星宿、亦積氣中之有光耀者、只使墜、亦不能有所中傷。」其人曰「奈地壞何?」曉者曰「地積塊耳、充塞四虛、亡處亡塊。若躇步跐蹈、終日在地上行止、奈何憂其壞?」其人舍然大喜、曉之者亦舍然大喜。長廬子聞而笑之曰「虹蜺也、雲霧也、風雨也、四時也、此積氣之成乎天者也。山岳也、河海也、金石也、火木也、此積形之成乎地者也。知積氣也、知積塊也、奚謂不壞?夫天地、空中之一細物、有中之最巨者。難終難窮、此固然矣。難測難識、此固然矣。憂其壞者、誠為大遠。言其不壞者、亦為未是。天地不得不壞、則會歸於壞。遇其壞時、奚為不憂哉?」子列子聞而笑曰「言天地壞者亦謬、言天地不壞者亦謬。壞與不壞、吾所不能知也。雖然、彼一也、此一也。故生不知死、死不知生。來不知去、去不知來。壞與不壞、吾何容心哉?」』(『列子』天瑞篇)
→杞の国に、天地が崩れ落ちることを心配する人がいた。身の寄せようもなく、食べ物は喉を通らないし、眠ることさえままならない。彼の心配症を心配する人がいてわざわざ赴いてその人に諭した。
 「天は気が集まってできたもの。気のないところなんでどこにもない。君が身体を屈伸させたり呼吸したりしている間もずっと君は天の気の中で過ごしているじゃないか。なんで天が崩れ落ちるなんて考えるんだ?」
 その人はこう言った。「天が気の集まりだったとしても、お日様やお月様や星々が落ちてくるかもしれないじゃないか。」
 「お日様もお月様も星々も集まった気が光を放っているだけだ。落ちたところで怪我なんてしないよ。」
 「大地が崩れてしまうかもしれないじゃないか。」
 「大地は小さな土くれの集まりだ。この世界をどこまでも行ったところで、土に覆われていない場所なんてない。君が歩いたり走ったり寝ころんだりしている間もずっと君は大地の上で過ごしているじゃないか。なんで大地が崩れるなんて考えるだ?」
 心配性の人はそれを聞いて喜び、諭した人もその様子を見て喜んだ。
 
 この話を聞いて長廬子が笑っていわく。
「虹や雲や霧や風や雨、そしてそれを紡ぐ四季の変化は全て気の働きが天の営みの中で起こしているものだ。丘や山、河や海、金や石、火や樹木は気の働きが大地の営みの中で積み上げられたものだ。それらが気の集まりであり、土砂の塊であると知れば、崩れないとは言いきれない。そもそも天地は空中のちっぽけな存在の一つにすぎないが、同時に天地が目に見える最大の存在でもある。その果てに思いが及ばないのは当然だろう。推し量る事ができないのも当然だろう。天と地が崩れ落ちることを心配するのは、まことに大袈裟だ。しかし、天と地が崩れることがないとするのも正しいとは言いきれない。天と地が崩れ落ちないと言いきれない以上、いずれは崩れゆくものだろう。いずれ天地が崩壊する時が来るとするならば、それを憂うのは無理なからぬ事だ。」

 この話を聞いて列禦冦先生が笑っていわく。
「天地がいずれ崩れ落ちるとする人は誤っている。天地が崩れ落ちることはないとする人も誤っている。「崩れる」ということと「崩れない」ということは人の知で推し量れるものではない。一つの仮定に対し、もう一つの仮定があるのだ。生者には死が分からず、死者には生が分からない。未来からは過去が分からず、過去からは未来が分からない。崩れるということと、崩れないということ。その両者を心のどこにとどめておけばよいのだ?」

・・・こういうのを「杞憂(きゆう)」っつーわけです。『列子』を代表する成語であります。

「星が落ちてくる」とか「大地が崩れる」と憂う杞の国の心配性の人物とそれを諭す人物との会話を素材にして、長廬子と列子の意見を載せています。前提としての気の概念や世界観は、道家に共通するものです。

参照:「元気」の由来と日本書紀。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5082

『列子』の場合には書物として成立した時期が遅いので、漢字を追っているだけでもある程度意味は通じると思うんですが、「大地が崩れる」というのを地震の予知と考えたり、「星が落ちてくる」というのを隕石の落下と考えることもできます。乱暴に言うと、「いつどうなるかというのは分からない」ということでして、現代でもそれは「推測の域」を出ない点では変わりません。

これは荘子もそうですが、「大地が安定し続ける」という観念に道家は否定的でして、そういうところからも古代中国の地動説であると見ることもできます。ま、卓見だなと思うのは「夫天地、空中之一細物、有中之最巨者。(天地は空中のちっぽけな存在の一つにすぎないが、同時に天地は把握できる最大の存在でもある。)」ですね。

実は、
シュレーディンガーの猫(Schrödinger's cat)
「杞憂」をよくよく読んでみると、列子の言っている最後の段が「観測の問題」だということが分かります?「シュレーディンガーの猫」として読めるんです。

参照:Wikipedia 観測問題
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%B3%E6%B8%AC%E5%95%8F%E9%A1%8C

参照:シュレーディンガーの猫
http://www.youtube.com/watch?v=Q8savTZOzY0

・・・ただし、『列子』の場合『荘子』ほどまでに先を示してくれないし、余白がないのでそのまま読むのはあんまりオススメできない点もありますが、さすがに「杞憂」はお見事です。

参照:量子力学と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5057/

荘子の造化とラプラスの悪魔。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5087/

湯川秀樹(1907~1981)。
『そもそも自然現象の不確定性というのは、非常に確率論的な手法・・・(言い換えて)考え方を上手く使っているわけですが・・・ どういうことかといいますと、ま、お月さんに行く話しをしてもよろしいが、例えば選挙のときに「選挙速報」というのがありますね。選挙のときにまだ投票も終わらないないうちに、当選確実と出る。なぜ「当選確実」と言うか、といいますと、当選が不確実だから確実というんや(笑)。これは、選挙の前にいろいろな調査をしまして、その結果が出る確率は100パーセントに近い、何パーセントかは知りませんよ、90パーセントか、99パーセントか分かりませんが、そういう計算をして、これは非常に100パーセントに近い、といういわゆる推定をしまして、まだ開票も終わらんうちに、当選確実と出る。・・・我々人間が今生きているというのは、毎日毎日「当選確実」できているわけです。「今日も自動車に轢かれなかった(笑)」。だからこうしてここにおんねん。明日轢かれんか?そんなこと分かれへん。しかし、ま、轢かれんやろう。だから明日も「当選確実」。そういう推定の中をこうして生きているわけです。大昔中国には老子とか荘子とかいう面白い人がおりまして、人間はあんまり賢くないほうがよろしい、馬鹿の方がよろしい、というようなことを言うておった。では、老子自身は自分が馬鹿だとは思っていなかったはずや(笑)。例えば老子はこんなことをいうておる「知る者は言わず、言う者は知らず。」ところが、老子の言うことは残っとるわけや(笑)。そこには大きな矛盾がある、矛盾があるにも関わらず、今の世の中を通してみますと、恐るべき真実が隠されておる。人間がいらんことしたから、賢くなんぞなったから、科学なんぞ進歩させたからこんなえらいことになんねん。人間が人間の奥の奥底まで知る事を恐れねばならん。(湯川秀樹 創造的人間:東洋的思考から理論物理学へより)』

参照:I Feel The Earth Move - Carole King - With Lyrics
http://www.youtube.com/watch?v=wbQ4m-NqeF8&feature=related

Its the end of the world by R.E.M lyrics
http://www.youtube.com/watch?v=JsxavPANO8s&feature=related

あとで推敲予定。

今日はこの辺で。


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